先日妻のゆかりから、あらたまった表情でこんな相談をされました。







妻ゆかりの相談は「労働者本人は会社に復帰を望んでいて、退職を希望していない。親が退職届けを代筆して提出した場合、退職が認められるのか」といった内容でした。
私自身8回転職しているので退職届は書き慣れていますし、パソコンを使って書いた退職届でも問題ないことを知っています。
なるほど。たしかに代筆しようと思えばいくらでも可能ですよね。
しかも親御さんからの提出であれば、会社も認めざるを得ない気がします。
私は法律の専門家ではありません。しかし妻ゆかりには私の転職癖でだいぶ苦労をかけた手前、何か役に立てればと思い調べてみることにしました。
結論を先に言うと退職届の代筆は認められるようですが、結局のところ労働者本人が自筆し提出するのがベターなようです。
この記事はこんな方におすすめ
- 退職手続きを第三者に依頼したい、自分でやりたくない人
- 退職届の代筆は認められるのか知りたい人
Contents
退職届の代筆は認められるの?

退職届の代筆が認められるのかどうかは、民法に則(のっと)り判定されるようです。
民法とは、市民相互間の法律関係の最も基本的なルールを定めている法律です。個人の生活に関わる法律問題も、法人・事業者に関わる法律問題も、すべてこの民法を基本としているといってもよいでしょう。(参考:LSC綜合法律事務所サイト)

法律の詳しい説明は参考サイトに譲ります。ここでは法令をかみ砕き、解釈をまじえながら退職届代筆の有効性について解説していきます。
退職届の代筆は、ある条件下においてのみ原則認められます。
その条件とは、労働者本人の意思に基づいて代筆しているかです。
下図は労働者Aが退職を希望しており、退職届の代筆と提出を第三者のYに依頼した場合のイメージです。

この場合、代筆された退職届は原則有効となります。
第三者が退職届を代筆し提出も代行した場合、その第三者が労働者本人の意思表示を受けた上で代筆しているかがポイントです。
労働者本人の意思なく第三者に代筆された退職届は、勤め先の会社へ提出しても無効となります。
退職届という形式が重要なのではなく、労働者本人の意思が存在しているかどうかが重要です。
こんなとき退職届の代筆はOK?NG?

退職届の代筆は労働者本人の意思が存在しているかどうかが重要であるというポイントをふまえて、4つの具体例を解釈してみました。順番に紹介します。
親が一方的に退職届を代筆(ゆかりの友人の例)
精神疾患のため、現在休職中です。復職に向けて治療を継続しています。
同居している親から「退職届を代筆して会社に退職を伝えてくるから、仕事は辞めなさい」と言われました。私は会社を辞めたくありません。
親がパソコンで作った退職届に、私の印鑑を押して会社へ持参しました。もし会社がこれを受理した場合、私は退職しなければならないのでしょうか。

本人の印鑑が押されていても、本人の意思に反する退職届は無効です。
質問のケースでは、本人が退職を希望していません。本人の退職意思に基づいて書かれたものではないので、退職届は無効となります。(参考:かながわ福利厚生会)
親からの提出であれば有効になるという判例もありません。代筆する第三者と本人の関係性は問題にならず、本人に退職したいという意思があったかどうかが判断基準となります。
退職届は本人が作成することが原則です。しかし本人以外が作成した退職届でも、本人に退職の意思があり、それに基づいて第三者が作成した場合は有効です。
質問の背景が下記に該当する場合は、退職届の代筆が有効となります。
- 本人に退職の意思があり、本人と親の間でその認識が形成された上で親が退職届を代筆した場合
- 本人に黙って親が退職届を代筆し会社へ提出。その後、事実を知った本人が追認(ついにん)をした場合
ゆかりの友人例に近い、判例がありました。判決理由に興味がある人は、読んでみてください。

引用:全基連サイト判例検索

上司が勝手に退職届を代筆
一昨年にパートで入社し、昨年6月頃に妊娠した為、11月頃に産休扱いで4月まで休職させて欲しい旨をメールにて上司に送りました。
それに対する返答はなかったのですが、普段からメールに返信する上司ではなかったので、承認されたのだと思いそのままにしていました。
(中略)
その後9月末に他のスタッフからメールで「事業主が変わる事になり全員辞める事になりました。
解雇通知書があるので取りに来て下さい」と連絡を頂き、書類を取りに行く時に上司に質問しようと思い店に行きましたが、上司はおらず他のスタッフ達も詳細がわからないとの事でした。
皆辞める事になったので、仕方ないと思い解雇通知書を受け取り、そのままにしていました。
生まれてくる子を保育園に申し込みましたが、仕事がないので、入れず、6月までに仕事を決めないとその保育園にいる上の子が退所しなければいけない状態になりました。
産後すぐからいくつも面接を受けましたが、やはり乳児を預けるのが難しい状況では採用されず、5月になり、ハローワークに相談に行きました。
そこで、昨年、会社都合で辞めていたはずだったのに、自己都合になっている事に気付き、会社に問い合わせたところ、上司代筆で8月に退職届を出されている事に気付きました。
そして、事業主が変わる際に他のスタッフは新しい事業主に面談を受けられる機会を与えられていた事も知りました。
会社と話し合い、離職票は会社都合に変えてもらえますが、働く意思があったのに勝手に退職届を出され、継続で働ける機会まで取られていた事に納得がいきません。
引用:弁護士ドットコム

勝手に提出された退職届はもちろん無効です。専門機関に相談しましょう。
解雇を渋々了承しているものの、本人の了解なく退職届を代筆することは、上司の行為は偽造ということになります。
会社側が会社都合退職にすると都合が悪いので、自己都合退職扱いにしようという企みから、退職届の無断代筆という手段を使ったと考えられます。
勝手に提出された退職届は本来無効ですが、すでに退職が成立してしまっているので専門機関に相談しましょう。
味方についてくれそうな弁護士を自分で探して相談してもよいのですが、どんな弁護士に相談すればよいのか悩んでしまいますよね。
総合労働相談コーナーと呼ばれる、厚生労働省管轄の相談窓口があります。市民が気軽に利用できる窓口ですので、まずはこちらを利用してみるとよいですよ。

引用:厚生労働省サイト

自己都合退職か、会社都合退職かで変わる保障についてはこちらの記事が参考になります。
社員が意識不明の重体。家族が退職届を代筆
社員がくも膜下出血で倒れ、今も意識が戻らず入院中です。
当然ながら本人と連絡がとれないため、有給休暇消化および休職ということで様子見の状況となっています。本人の意思を確認できないままの「退職願(配偶者の代筆)」を受け取った場合、その有効性はどの程度ですか?
引用:日本の人事部

意識がない人の退職意思が存在するのかは判断できないため、無効となる可能性が高いです。会社側は就業規則とあわせて、解雇にするか退職扱いにするか対応を検討する必要があります。
だんだんと込み入った質問になってきました。このケースでは会社側の立場で解釈してみます。
すでにお伝えしたとおり、雇用契約の解除(退職)には本人の意思が存在するかどうかが重要です。
この質問のケースでは本人の意思を確認することが不可能ですので、身内が代筆した退職届は無効となる可能性が高いでしょう。
では、会社としてどう対応すればよいのでしょうか。
一般的には就業規則の定めに則り対応することになります。就業規則の休職、退職、解雇の規則でどう定めているかがポイントになってきます。
休職についての就業規則例(第10条)を見てみましょう。

具体的な期間の定めは会社によって違いますが、休職期間や休職期間終了後の対応について明記していることがあります。会社の就業規則を確認してみましょう。
なお、先程紹介した総合労働相談コーナーでは事業主も相談が可能です。就業規則で定められていなかったり、社内で判断できないときには利用してみるとよいでしょう。
判例は見つけられませんでしたが、類似例では一定期間経過後に自然退職扱いで雇用契約を解除しているようです。(参考:総務の森)



社員が失踪。代筆の退職届が提出されたら退職金を支払う?
ある社員が突然出社しなくなり、音信不通となりました。
この社員の代わりに、配偶者が退職届を提出してきましたが、この退職届は有効でしょうか?また、この配偶者へ退職金を支払っても問題ないでしょうか?
引用:労務ドットジェイピー

本人の意思が確認できていないので、退職届は無効。退職金の請求権は労働者本人が持つので配偶者へ直接支払うことはできません。
4つ目のケースは、社員が行方不明になり連絡がとれなくなった場合です。
意識不明となり本人の意思が確認できないケースと同様、退職届の代筆は無効です。就業規則に則り解雇か自然退職の対応となります。
補足として、社員が行方不明になった場合は公示送達(民法第98条)制度を利用することで会社側から解雇の意思表示をすることができます。
行方不明になった社員の勤務態度が以前からよくなかったり、行方不明になった後で会社のお金を着服していたなど不正が発覚して解雇にしたい場合は有効な方法です。
また退職金の請求も代理ではできませんが、条件付きで退職金を支払うケースもあるようです。詳しく知りたい方は労務ドットジェイピーのQ&Aを参考にしてみてください。
退職手続きは第三者へ依頼できるのか

退職届の代筆は、本人の意思が存在しなければ無効になると具体例で解説しました。
それでは「辞めたい気持ちは固まっているけど、もう会社と関わりたくない。退職届すら書きたくない。誰かに退職手続きをやってもらいたい」という人は、第三者へ退職手続きを依頼できるのでしょうか。
最近では退職代行サービスも話題にのぼるようになり、会社側が退職届を受け取ってくれないようなトラブルがあってもすんなり退職できたという口コミも目にするようになりました。
退職話がもめそうだとわかっている場合は、費用がかかったとしても手続きを代行してもらえたら気が楽ですよね。ブラック企業を辞めたくてもなかなか辞められないと悩む労働者が多い現代では、画期的なサービスと言えるのかもしれません。
しかし法律の解釈を学んだ今では、退職手続きはできる限り自分で行うほうがよいというのが私の見解です。
法律から視(み)た退職届とは
退職届は労働契約解消の意思表示として、労働者側から雇用主へ提出されるものです。
本来、退職届は解約申込書ではなく、退職の意思表示を示す文書にすぎません。また、退職時に退職届を提出しなければならない義務は法律上ありません。労働者本人が、雇用主の会社へ「辞めます」と口頭で申し入れても退職の意思表示として有効で、問題ありません。
「自筆でサインをしなければならない」「捺印がない退職届は無効」などの厳密な規定はありません。
退職届の提出が一般化しているのは退職時のトラブルを防ぐため、書面に残しておきたいという目的からです。
退職届は手書きでもパソコンで作成してもOKで、書き方もある程度定型化しています。
退職届の一般的な書き方はこちらの記事が参考になります。
退職届の提出は「雇用契約を解除します」と申し出る行為です。契約の解除を求める場合、契約者本人が解約を申し出るのが原則ですので、退職届も労働者本人が直筆し提出するのが通例と言えます。
民法では退職届の提出を義務と定めていませんが、就業規則で定められている場合があります。こちらについてはのちほど説明します。
代筆の場合も退職届の書き方は同じ
退職届の代筆を依頼する場合、書き方は一般的な退職届と変わりません。
自己退職扱いとなりますので、理由は「一身上の都合により」と記載し、労働者本人の名前を書きます。代筆者の個人情報は不要です。
退職届の代筆が認められるのはなぜ?
退職届の代筆は、労働者本人の意思に基づいて代筆していれば有効とお伝えしました。
これは、依頼する人と依頼を受けた人の間で意思の合意があれば、代理行為が有効になると民法上で定められているからです。

日常生活に契約行為は欠かせません。法律の一部である民法では個人の生活で頻繁に交わされる契約行為について、個人が不利益を被らないように法令を定めています。
退職届の代筆はトラブルになることも
退職届は代筆OKと解説しましたが、後でトラブルになることもあります。
法律上は、依頼する人と依頼を受けた人の間で意思の合意があれば、代理行為が有効になるとお話しました。しかし後々になって依頼をした、依頼はしていないともめたときに、依頼を証明できないと無断で代筆したことになってしまいます。
この場合、代筆した人に責任が生じます。(参考:ケアマネドットコム)

退職代行サービスの利用規約も確認してみましたが、退職届の代筆は請け負わないとはっきり記載しているところもありました。

引用:退職代行サービスEXIT
会社によっては就業規則の中で、退職届提出の期日や提出方法を定めていることもあります。
自分で書けないやむを得ない理由がないのであれば、退職届は自分で書いて自分で提出しましょう。
携帯電話のプラン変更の例のように、退職届の代筆を依頼したことを書面に残しておく方法も思いつきます。しかしそんな面倒なことをするなら、自分で書いて提出したほうがトラブルになるリスクも低く合理的です。
勤めている会社がブラック企業で円満に辞められそうにない場合は、第三者への依頼も検討しましょう。ただし依頼する際、最低でも退職届の記入と提出だけは自分で行ったほうが無難です。もめるとわかっている相手に火種を撒くようなものです。
退職代行サービスについて詳しく知りたい人は、こちらのランキングを参考にしてみてください。
民法 VS 就業規則 どちらが優先なの?
ここまで民法の話も交えながら、退職届の代筆について解説してきました。
法律である民法に触れてみてひとつ疑問に思ったのですが、「民法と就業規則はどちらが優先されるのか」という点です。
現状は民法の規定が優先ではあるけれど、円満退職のためには就業規則の規定をできる限り守ったほうがよいと結論づけました。
転職系のサイトでよく目にするのは、「就業規則で退職の申し出は○ヶ月前までに行うと定められていても、民法では14日前までに申告すればよいことになっているから大丈夫」といったものです。
この情報が正しければ就業規則よりも民法が優先されると解釈できますが、なぜわざわざ会社ごとに就業規則を定めるのでしょうか。
民法で定められている法令が最優先されるならば、就業規則に退職の申し出の期日まで規定する必要はないと思います。いい機会なので調べてみましたが、ストレートに判断している公的見解や判例は見当たりませんでした。
就業規則で定められていなくてトラブルになった、特別な事情があってどう退職手続きをすればよいかわからないという場合には、先に紹介した総合労働相談コーナーなどの専門機関に相談しましょう。
まとめ
いかがでしたか。
退職は、その後の進路も考えなければならないし、手続き上もやるべきことが多くあります。スムーズに退職するために、まるごと手続きを依頼したくなる気持ちもわからなくはないです。
あなたが自分で書いた退職届から円満退職への一歩が始まるということをお伝えして、記事のまとめといたします。
- 退職届の代筆は後々トラブルになることもある。代理人との間に自分の退職意思が存在していても、特別な事情がない限り自分で書こう
- 判断が難しい場合は総合労働相談コーナーなどの専門機関に相談しよう








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