パワハラに苦しんでいるみなさん。
「訴えてやる!」と考えているかなり追い詰められている方もおられるのではないでしょうか。傷ついた分、相手をどうにかしてやりたいと思うのは当然です。
私も「これはパワハラじゃないか?」と思う行為を受けたことがあります。というか、みなさん一回は経験あるんじゃないでしょうか。自分が当事者じゃなくても、目撃したことがあるかもしれません。
パワハラは許されることではありません。ですが、指導との境界線が明確ではなかったり、行動に起こす前に自分の体が壊れてしまって休職や退職に追い込まれ、泣き寝入りしてしまうことも少なくないのが現状です。
また、辛い状況からやっと逃れることができた後で「訴える」気持ちがむくむく芽生えることだってあるでしょう。
実は、パワハラで「訴える」には有効期限があるのをご存知ですか?
正しくは、パワハラの内容で分類される事件に基づき時効が定められているのです。行動に起こそうとした時にはこの期限(=時効)をある程度意識する必要がありますが、時効の起算日によっても状況は大きく変わってくるので、注意が必要なんです。
苦しい、辛い思いをされたあなたを守る体制はかなり整ってきています。2020年には、パワハラ防止の取り組みを義務付ける法律が制定される予定です。
参考:パワハラ防止、2020年から義務化 労政審、ハラスメント報告書了承
パワハラをなくす対策が国レベルで動いている今、使えるものはどんどん利用してほしいです。でもまずはこの記事で時効について理解していただき、自分で自分を守るための武装準備を進めてほしいと思います。
パワハラについて理解する -あくまで「概念」にすぎない-
実は私の前職の後輩Aさんが、上司からのパワハラに悩んでいたので、相談に乗ったことがありました。
Aさんは上司から、明らかに処理不可能な量の仕事を押し付けられ、毎日深夜帰りが続いていたようです。周りの人も見て見ぬ振りで、ヘルプをお願いするも上司に「他のみんなも同じくらいの仕事量だから」と言われたのだそうです。



無知ながら、その時初めてパワハラはあくまで「概念」にすぎず、事件の種類によって訴え方も時効も変わるということを知りました。
また、パワハラの定義は下記のようにされています。
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。
引用 あかるい職場応援団
すっごく抽象的な表現ですよね!広範囲にわたる意味合いが含まれる概念なのです。
人によって悩んでいる状況は様々であり、これはパワハラとそうでないものの境界線を引くのは非常に難しいですね。明確な枠組みがないからこそ、悩んでいる人がたくさんいるということです。
訴える手段(法律)から時効を知る
あなたが受けたパワハラについて、誰に責任追及をしたいか?どのように訴えたいのか?を考えてみましょう。
先述のとおり、パワハラはあくまで概念であって、パワハラに対する特別な法律で相手を裁けるわけではありません。今後パワハラ防止の取り組みが義務付けられたとしても、「パワハラ法」ができるわけではないということです。
訴えるためにはすでに存在する法律を使うことになります。民法か刑法です。
パワハラ行為がどんなものだったのか?犯罪行為だったのか?人の権利を奪うようなものだったのか?によって該当する法律は変わります。特に民法から特別法として制定された労働基準法については私たち労働者を守るために存在し、一番身近な法律であるといえます。 それでは法律によってどのような時効が設定されているのか、パワハラで多く取り上げられる代表的なものをご紹介します。 労働基準法は違反した場合、罰金などが科される法律です。賃金や労働時間、休暇などの具体的な労働条件について記載されています。長時間労働や残業時間未払いなどは、労働基準法に違反していると思われるため、まずは労働基準監督署に訴える流れになるでしょう。 労働基準法に基づいて訴えた場合に未払いの賃金や災害補償などが請求できる可能性がありますが、請求権の時効(消滅時効)は2年と規定されています。(2020年の民法改正で5年に延長する可能性があります) なお、労働基準監督署は国の行政機関なので無料で相談に乗ってもらえますが、労働基準法に関わる内容でなければ相談に応じてくれない場合もあります。その際には都道府県に設置された労働局であれば労働基準監督署が対応してくれない内容も包括的に担当してくれるのでそちらで相談するとよいでしょう。 民法では人の権利や義務を奪うような行為に対し損害賠償が請求できると示されています。損害賠償は以下の2つの行為が該当します。 ・上司に人格を否定するような言葉を浴びせられ、精神的苦痛を感じている であれば「上司」が行った不法行為であるため、上司に対して損害賠償を請求する流れになると思われます。 ・上司や同僚みんなから無視をされ、仕事をすべて押し付けられている。会社に相談するも改善される様子もなく、心身ともに限界を感じている であれば、そのような状況を野放しにしている会社の職場環境配慮義務違反による債務不履行責任として会社へ損害賠償を請求する流れになると思われます。 最初にお話しした私の前職の後輩Aさんは、まさにこの「債務不履行」にあたるのではないかと考えたわけですね。 上記は一例ですので、状況によって損害賠償を請求できるかは変わってきます。立証する証拠の有無などが大きく関わります。状況によっては、上司と会社どちらにも損害賠償を請求できる可能性もあるわけです。 時効としては、不法行為の発生から20年、または損害や加害を知ってから3年とされています。不法行為の立証(証拠集め)は訴える側が行う必要がありますので、しっかりと証明できるものを用意し認められることで時効起算日も変わってくるということですね。また、会社の債務不履行であった場合、債権成立から10年となっています。 パワハラが犯罪にあたるものであった場合、刑法に基づき相手を訴えることになりますので、警察署に「被害届」を出しましょう。パワハラ行為が犯罪と分類される場合、下記のような刑事罰が下されます。 刑法第222条 刑法第208条 刑法第204条 刑法第230条 上記の犯罪の時効はいずれも公訴時効(裁判にあげて罰を受けさせることができる期間)3年、損害賠償請求期限は発生から20年、または損害や加害を知ってから3年とされています。 注意したいのは、警察に被害届を出して相手が逮捕されたとしても、自動的に損害賠償金が自分の元に届くわけではないということです。損害賠償請求には、別途民法に基づき民事裁判を起こす必要があります。 詳しいことはやはり専門家(弁護士)に聞くのがベストです。弁護士事務所は多数存在しますが、まずは国が設立した日本司法支援センター「法テラス」を利用するのが良いでしょう。 会社の債務不履行であれば債権成立から10年 公訴時効3年 損害賠償請求期限3年または20年裁判にあげて罰を受けさせることができる期間 弁護士 参考:法テラス いかがでしたか? パワハラと一言でいってもこんなに種類があります。 まずはパワハラを受けた事実を証明できるようにするために、証拠集めを徹底的に行わなければ、訴えを起こしても相手を罰することも損害賠償請求をすることもできません。 そして時効を気にする場合は自分がされているパワハラがどれに当たるのかを考える必要があります。とは言え、専門的な言葉が多く出てくるため、何罪になるのか?ネットや独学で分類するのは非常に難しいと思われます。 あなたができること、すべきことは ・パワハラ行為を立証するための証拠になるものをしっかり集めておく ・一人で抱え込まず、相談できる窓口を利用してみる まずはこの2つを、早め早めに行動することが非常に大切です。もし該当する時効が比較的長いとしても、証拠は時間の経過とともに自他の記憶も薄れ、効力を弱めてしまいます。 あなたを守るために社会は動いています。あなたも是非、第一歩を踏み出してみてくださいね。
大枠を定めた民法から枝分かれして、労働関係を詳しく定めたものに労働三法(労働基準法 等)がある。
犯罪やそれに対する刑について詳しく述べられた法律。
労働基準法
民法
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
刑法
手段と時効のまとめ
労働基準法
民法
刑法
誰を訴える?
会社自体、経営者もしくは会社から一定の権限を与えられた「使用者」
パワハラ行為をした当人(上司など) もしくは 会社自体
パワハラ行為をした当人(上司など)
どこに訴える?
労働基準監督署
裁判所
警察
求めるもの
労働環境の是正 未払い賃金や退職金などの請求
損害賠償金
刑罰 (損害賠償請求の場合には別途民事裁判)
時効
未払い賃金の請求権は2年
不法行為であれば行為の発生から20年、または損害、加害を知ってから3年
例に挙げた犯罪については
主な相談先
労働局 参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧
最後に